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日本全国に伝統的な漆芸が残っていますが、香川県も例外ではありません。瀬戸内海を望むゆたかな風景の中で育まれてきた讃岐の漆は、他産地の漆芸に比べると、その明るく華やかな色彩に大きな特徴があります。その讃岐漆の良さを、世界中の、より多くの方々に知っていただき、親しんでいただきたいとの思いから、男木島出身の漆芸家大谷早人氏の実家である木造家屋をリノベーションし、漆に直に触れ、感じてもらえる空間を、漆芸家北岡省三、大谷早人と若手漆芸家が力を合わせて生み出しました。
漆は長い文化の中で生活の中で使われてきました。現代生活においても、エコロジー、ロングライフなどの視点からも、注目すべき素材であり、技法であり、ものづくりの考え方ではないかと私たちは考えています。新たな時代の「漆のある暮らし」を考える場です。
漆の家が目指すところ
ここは「家」です。人々が会話を楽しみ、ゆっくりと時間を過ごすことができる家。茶室として使ってもらったり、ここで宿泊してもらったり、漆やものづくりや生活について話し合える場となったらいいな、と思っています。讃岐漆芸を担う工芸作家と、アーティストや他ジャンルの工芸家やデザイナー、建築家たちとともに、讃岐漆芸の可能性にチャレンジできる場所となったらいいな、と思っています。漆を使ったアイデアを実験したり、発表したり、日常生活との関わりを考えたりできたらいいな、と思っています。つまり、讃岐漆芸と外の多様な世界がつながる、未来の場所であることを目指しているのです。
讃岐の漆とは
讃岐漆芸は、江戸時代に玉楮象谷 (たまかじ・ぞうこく) が中国やアジアの漆技法を深く研究し、独自の技法を草案してその基礎をつくりあげ、高松藩主・松平家代々の手厚い工芸保護育成の奨励と支援によって、広く香川全域に多数の優れた漆芸家・漆業者を生み出してきました。近世以降、讃岐の漆はさらに発展し、現在では、蒟醤 (きんま) 、存清 (ぞんせい) 、彫漆 (ちょうしつ) 、後藤 (ごとう) 塗、象谷 (ぞうこく) 塗の5技法が、日本の伝統工芸品に指定されています。その用途は幅広く、小物から家具・調度品に至る、生活のさまざまなシーンになじむ商品を生み出しています。
香川には、讃岐の漆の明日を担う若手育成を目的とした漆芸研究所 (1954年設立) があり、県立高松工芸高校でも漆芸を教えているほど、漆は親しまれています。
手前が白い部屋。白い漆を壁と床に塗りました。ひんやりとした漆の感触に触れてください。何気ない部屋ですが、座ってください。寝転がってください。外を眺めれば瀬戸内海が広がっています。引き戸を開けてみてください。夕焼けのように白から紅へ移り変わる作品が隠されています。漆を塗った木製テープを網代に編んでつくられています。 (製作:大谷早人) → 図面をみる。
右翼の奥は黒い部屋。漆黒の中に、讃岐漆芸の技法のひとつである「彫漆」で彫られた色とりどりの星々が空間いっぱいに広がります。彫漆は、色漆を何層にも塗り重ねて、漆の層を彫り出していくもの。それはまるで宇宙に新しい星が生みだすかのようです。 (製作監修:北岡省二) → 図面をみる。